アイデンティテイー鑑賞

雨のために移動ができずにモーテルに泊まる事になった
それぞれの事情を抱えた人物達。怪我人や護送中の囚人を抱え、
一刻もはやく連絡を取りたいが、電話も無線も繋がらない。
そんな陸の孤島と化したモーテルで殺人が起きる。殺された人物は
部屋の鍵の「10」を持っていた。次々と殺されていく人々。犯人は誰だ?


というのが粗筋。とある映画雑誌にて高い評価を得ていたので観てみました。
ジャンル的にはミステリ・サスペンスですが、特筆すべきは、映画の冒頭に
「この映画のラストを観ていない人には秘密にしてください」というテロップ
が流れるということ。


以下感想。
良かった事からまず書こうか。この映画は展開が非常に速いです。
冗長な部分が極力減らされており、緊迫感を持ったままサクサクと話が進ん
でいきます。それでいて情報や伏線の提示は丁寧かつ明瞭で、
キャラクターの特徴も顔から、性格まで判り易い演出をしているので、話に
置いていかれる事も、不自然さを感じさせる事なく綺麗な導入が出来ています。
そのままの勢いで一気にラストまで持っていくその手腕は見事としか言えません。
また、ストーリーや映像はオーソドックスで、「こうくるだろう」という予想を
大抵裏切らないのですが、変に捻っているよりも効果的に働いていて、
判ってはいるんだけど凄くドキドキせれらます。


という訳で前半、中盤の俺の評価は極めて高かった訳ですが、
問題は後半というかオチ。驚いたか?と言えば驚きました。
まさかそうくるとは!という感じです。けど、正直落胆の方が強いです。
世界観がガラリと変わってしまう。というのがどんでん返しの真骨頂だと
いうならその面目は充分に果たしていると言えるのでしょうが、
ガラリと変わったその世界観が俺には受け入れがたかったというその一点
だけがこの映画の評価を落とす原因です。魅力が無くなったとさえ思います。
理性では納得できても感情では否定したい。というか……。うーん。
そんな感じだからラストシーンでも「はぁ、そうですか」くらいにしか
思いませんでしたねぇ。惜しいなぁ。けど、こう思わないのなら間違いなく
楽しかった!と言える良作映画だと思いますです。評価は☆☆☆★くらい。


以下ネタバレ


解離性同一障害オチ。それ自体は陳腐とはいえ否定しないが、
脳内での精神同士の殺し合いなんぞ、なんの面白みがあろうか?
何故殺すのか? また何故舞台は雨の降り止まないモーテル
だったのか? 散々出してきた伏線やギミックの意味は?そういった
仕掛けであると同時に物語を盛り上げるために必要なものが、
鑑賞者にミスリードさせるためだけに存在した、別にあってもなくても
良いものだったというのが嫌いなんですよ。手段として使い捨てるようなのは。
叙述ミステリを映像化するとこんな感じになるだろうなぁという映画でした。
良い面だけでなく悪い面まで持ってこなくてもいいのに。
一番失敗だったなぁと思う点は、モーテル(脳内バトルロワイアル)パートと、
弁護士と検察の検証パートが上手く絡まってない点かな。既にオチとして
これは本当の殺人事件ではなく彼の精神で行われている事件だと判明している
のに、殺し合いのドラマはそんな事は知ったことかとばかりに変化もなく
進行していて訳で、非常にしらけます。坊やが犯人だったところであっそうですか。
という感じだし、とってつけたような殺人の様子を写し出されてもふーん。としか
思えません。人格同士をどうやって戦わせたのかの説明もなく、ましてや
それをあっさり受け入れる弁護士と検察に違和感を憶えるし、殺人鬼の人格
じゃなかったら死刑は求刑されないという仕組みも変だと思えた。
「所詮、脳内」と言わんばかりにオチのためにすべてを投げた時点で、
製作者は鑑賞者に「所詮、脳内だろ?」と白けられて名作の評価を棒に振る
運命をも避けられなかった訳です。

↑ここまで